愛されること

イエスタデイをうたって 2 (ヤングジャンプコミックス)

イエスタデイをうたって 2 (ヤングジャンプコミックス)

冬目景の作品はなぜかスルーしていたんですけど、この前本屋で『イエスタデイをうたって』の表紙を見たら買いたいという衝動に駆られてしまいました。それで買ったんですけど、やっぱりおもしろいです。冬目さんの遅筆は有名ですが、この作品もこの前6巻が出たんですけど1巻は1999年に刊行されてて、この調子だと新刊はいつになるのか、なんて思ってしまいます。

イエスタデイをうたって』は特に話が劇的でもないし、なにがいいのか説明しろと言われると困ってしまいます。ゆっくりと進む人間関係と時間が心地よい。「懐かしく優しい昨日を思い出す幻想の青春」*1という言葉が似合うかもしれません。1999年当時、私は小学校高学年でした。この時期って多くの人が一番幸せだったと答える時期なんじゃないのかな、と勝手に考えてるんですけど、とにかく私は幸せでした。手放しで幸せといえる時間でした。そのころに連載がスタートされてるので、なんとなく幸せな空気が流れているように感じるのです。

無条件で愛されること

それで、『イエスタデイをうたって』にでてくるハルちゃん(表紙の女の子)と主人公格の男、魚住の話をしたいのです。ハルちゃんは高校時代に、大学受験に向かう途中の魚住が落した受験票を拾ってあげるんです。その後、ハルちゃんは高校を中退して、魚住は大学卒業後も職につかずにバイト生活をする……そんなはみ出し者たちが偶然出会うところから話は始まるんですけど、このハルちゃん、最初に魚住に受験票渡したところから、ずっと彼のこと好きなんです。ところが魚住は、他の女性のことが好きで…と、これ以上はネタばれなので割愛します。
私は、ハルちゃんの行動が理解できないのです。自分でもどうして魚住が好きなのかわかっていない。「おかしいよね…レンアイなんてただの錯覚なのに…わかってんのにそれに逆らえないなんて」*2また、魚住のほうもハルちゃんを無視し続ける。無条件で愛し、愛される関係なんです。
この無条件の愛情関係というのは、今の私には見ていて痛々しく感じられるのです。男女間の恋愛関係というものから敷衍させて考えると、無条件の愛情の代表的なのは、親子の間で見られるものでしょう。この親から子への無条件の愛というのを想起させるからこそ、読んでいて苦痛なのかもしれません。

理由なくしての愛情…私がまだ子供だから理解できないのかもしれません。が、少なくとも無条件で愛されることは、その人の重荷になることはあると思うのです。神から無条件で愛されること これこそ原罪感情の原因なのではないか、なんて大仰でしょうかね。

*1:鬼頭莫宏デビュー作『残暑』に審査員だった藤子不二雄Aのコメント

*2:1巻p72