BSマンガ夜話のお話

青い花 3巻 (Fx COMICS)

青い花 3巻 (Fx COMICS)

前から存在は知っていたのですが見たことなかったマンガ夜話http://www.nhk.or.jp/manga/index.html志村貴子の『青い花』が登場するっていうので見てみました!その感想です。(今更感が否めないけど)

見ててドキドキ♪

初めて見たのでなんともいえないのですが、まぁ普通のゴールデンタイムには流せないっていうか、放送事故とまではいかないものの、かなりドキドキする番組でした。夏目房之介さんが初っぱなから「このマンガはわかりません」発言してビックリしたんですが、1時間の番組の中で、なんともいえない微妙な空気が流れていましたよね…。

マンガは感情移入して読むものなのか?

夏目さんは「誰に感情移入していいかわからない」らしくて、作品のプロットを理解するのにかなり手間取っているようでした。僕はこんな記事書いてるんですから、もちろん『青い花』は好きなんですが、誰かに感情移入して読むという意識を全く持ったことがなくて、この発言にはかなり戸惑った、というか理解に苦しんだのです。たしかに振り返ってみればふみちゃんのモジモジさに感情移入し、あきらちゃんと一緒に困惑していたかもしれませんが、特定の誰かに気持ちをシンパサイズすることはなかったように思います。だから最初から夏目さんの「わからない」がわからなかったのです。

閉じられた世界の是非

何回も触れられていたキーワード。それが「この作品は閉じられている」あるいは「円環構造」とか「外部が存在しない」というのも同義になるかと思いますが、このことが『青い花』を語る上でことさら強調され、さらにそれがある種のネガティヴなニュアンスを伴って使用されたことに僕は驚きました。彼らは(とくにレギュラー陣、つまりおじさま方は)百合というジャンルにカテゴライズされる作品にはなにかしら、外部からのつっこみのようなものがあったといいます。対して『青い花』はまず「大人」がいないというのです。各務先生などたしかに大人は登場するけれど、彼らが高校生を客観視できるにいたっていない、要するに高校生たちと同一の地平で語り合っている(みたいなことだったと思うのですが忘れましたw)という主張。つぎに非-リアルであること。登場人物たちはもちろんリアルのように描かれているのだけれど、少しだけ現実と乖離している印象を受けたようで、たとえば杉本先輩は現実にはもっと性格悪いだろーとかいう感じの…。


そんなこと言っちゃうの!?って感じですよね。そもそも『青い花』という表題自体、ノヴァーリス青い花を連想させ、一般的にも青い花というのは理想の、ということはつまり現実にはたどり着けないもの、手につかめないものの喩えとして使用されるわけで、僕はむしろ「閉じられた世界」のほうがこの作品にはふさわしいように思えるのです。


簡潔にいいましょう。レギュラー陣のおじさま方は『青い花』を完全に読み込めていなかったのです。彼らはこのマンガの何について語ればいいのか、何を語れるのかを全く把握していなかったように思うのです。別に責めるわけでもなんでもないのですが、たぶん彼らは本当に「わからなかった」のだと思います。たしかに『青い花』はわかりづらいかもしれません。

青い花』わかりづらい点いくつか

まず、4巻ラスト。ついに肉体関係の描写がでてきて次回に続く!って感じで終わっているところです。このシーンは番組内でも「この描写で今までの世界が崩壊するよね」的なことを誰かが言ってましたが、まさにその通りで、今まで理想、非-リアルのままであったマンガ世界に一気に肉体という朽ち果てる、忌むべき表象が登場しちゃうんですよ。だから4巻まではリアルじゃないのですが、4巻からは、少なくとも最後ではリアルへの世界が開けたといっても過言じゃないでしょう。ここで上述の「閉じられた世界」という主張は崩れると思うのですが、いかんせん4巻までしか語れないので、なんとも尻切れトンボのような議論になってしまったわけです。


つぎにジャンルの不確定さが挙げられます。これって「百合」なの!?っていう問題です。
百合を定義するのにもままならないわけで、ジャンルわけは不可能だと思うのですが、それでも一応世間では百合作品として認知されているじゃないですか。でもモギーとあきら兄との恋愛もでてくるし、「百合ってあんまり好きじゃないけど『青い花』は大丈夫」っていう人も多いと思います。だから論点も「『青い花』における百合」じゃなくて「『青い花』って百合なの?っていうか百合ってなに?」という本筋から離れた方向へと進まざるをえませんでした。


また、掲載誌の問題もあると思います。エロティクスFですけど、これが一応男性向けだという話でしたが、それも微妙ですよね。正確な読者層は知りませんがFを読む限りでは、とりあえずエロティックならOKというか…。ということは誰に向けられて発信されているマンガなのかすら明確ではないということになり、結果として『青い花』を語る上での共通のコンセンサスが生成されづらい状態が生まれてしまったというわけです。

もちろん良かったところもあったのです

たとえば夏目先生のコマ割り講座。模範的なコマ展開読解でしたね。目線と吹き出しは基本ですが、さらにコマ内に流れるまで分析するとは、すげぇぇぇ!!
あとどなたか忘れてしまったのですが、男性性の崩壊と結びつけて語ろうとしていた人がいましたね。つまり現代の男性は自分の男性性を重荷に感じているというわけです。そうしたいわゆる草食系男子と呼ばれる男性にとっては、『青い花』はわけなく読める、すらすら読めるのだろう、という主張でした。実に興味深いですね。

まとめ

とにかくハラハラドキドキの1時間でしたよ!
夏目先生の「わからない」発言。
ゲストの女性とレギュラー男性陣のテンションの差。
岡田さんの「2巻では、この作者は自分の絵の下手さを隠そうとしているとしか思えない」発言w
いしかわさんの「背景を書こうっていう意識が感じられるし、この子は絵上手いよ」などなど……。

まぁ志村貴子を語る難しさ、百合ジャンルの不確定さ、ジャンダーと世代間ギャップなどマンガにおけるアポリア続出の見ていてニヤニヤがとまらない放送でした!!


青い花 (岩波文庫)

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ノヴァーリスの『青い花』は後半わけわからなくなったりしますが基本的に神ですw
<もはや時間と空間の秩序は絶え、ここでは過去に未来があらわれる。>
青い花 第3巻 [DVD]

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アニメ化されたのにまだ見てないや。TSUTAYAに早くもレンタル開始されてたから見てみるかー